entry

「Papers, Please」レビュー、1982年の閉塞感を味わう

date: 2014/03/01 17:04
|

papersplease_review_01

「Papers, Please」というゲームがリリースされた2013年8月、プレイした人の話を聞くと絶賛の嵐ではあったものの、個人的にはそれほど興味を持てずにいました。
当時は「いかに多くのパスポートを短時間に正確に捌けるかどうか」という、パズル的な作業とスコアアタックがメインのゲームだと考えていたのです。

あれから半年経ち、日本語版(アップデート)が行われた今、実際にプレイして最初に感じたのは「思っていたのと違う! すごく面白い! そしてつらい!」という衝撃でした。
確かにこのゲームの基礎となる部分は終始繰り返される労働(作業)なのですが、これは責任重大な仕事であり、多くの人生と向き合わなくてはいけません。
日々ドラマがあり、プレイヤーは何度も難しい選択を迫られます。
自分の倫理観や経験を覗き込まれ、見透かされているような、息苦しさがあるのです。

本レビューに関しては、本作のローカライズと日本での販売元であるPLAYISMが募集していたレビュアー用のゲームキーコードの提供を受けています。
毎度、お世話になっております!


死が全てを解決する。人間が存在しなければ、問題も存在しないのだ

舞台と労働

作品の舞台となっているのは、「アルストツカ」という架空の共産主義国。
時は1982年。隣国との6年にわたる戦争も終結し、国交を再開します。
このたびプレイヤーは労働くじによって入国審査官に選ばれ、8等級の住居をあてがわれました。

しかし生活は苦しいの一語。
歩合制の薄給、ミスが増えると天引き、かさむ暖房費と家族全員の食費……。

ゲームプレイ

papersplease_review_04

基本的なゲームプレイは、前述の通り、パスポートや付属書類をチェックして入国の「許可」か「拒否」のスタンプを押す作業になります。
ルールはどんどん複雑になっていき、チェックすべき項目も増えていきます。
手続きがコロコロ変わるのは実にゲーム的なギミックなのですが、おかげで最後まで緊張感を持ってプレイできます(ストレスも増えるけれども!)

非常に巧みだと感じたのは、この流れに説得力がある点です。
例えば自爆テロが起こった翌日から追加書類が必要になるだとか、流行病を持ち込ませないように特定の国の入国を禁じるとかいった具合に、情勢に応じて規則が増減するわけです。
こういう話題は新聞や業務日報に掲載されていて、時に自分の選択の顛末を知ることもあります。

papersplease_review_02

papersplease_review_03

細かい書類の不備を発見できたときには、誰かに自慢したくなるような喜びを感じてしまいます。
そして同時に、拒否スタンプを押される側である画面内の入国希望者への哀れみも感じるのです。

入国希望者の中には、善良な旅行者だけではなくテロリストやスパイや密輸業者も混じっています。
規則上は問題のない旅行者に見えても実は自爆テロの実行犯で、自分が許可スタンプを押したことにより警備兵が巻き込まれて死亡することがあったり、息子に何年も会っていないという母親の書類には残念ながら不備があったり……。
職務に忠実であるべきか他者に篤実であるべきか、プレイヤーの心理を常に揺さぶり続けるのです。

papersplease_review_05

papersplease_review_06

初めてのプレイでは、慣れないこともあってすぐに行き詰ることでしょう。
どんどん苦しくなる生活。家族は病に倒れ、食べるものもなし。
アルストツカへの不信感もつもりばかり……。
そしてそんなタイミングで、国家の転覆を狙う組織が賄賂を持って登場するのです。

守るべきは家族か国家か?
恐ろしい! このゲームは本当に恐ろしい!

計算された細部

このゲーム性だけでも十分素晴らしいのですが、本作は細部へのこだわりも随所に感じられます。
個人的に気に入っているのは、「サウンドエフェクトとモーションの小気味よさ」「グラフィックの粗野さ」「机の狭さ」の3点。

備え付けのスタンプを引き出す音、押印する音、警告や照合をプリントアウトする音などなど。
エンドロールを見るとSEはフリーサウンドを使っているようですが、どれもモーションと上手く合わさっていて気持ちよく、平凡な作業の苦を軽くしてくれます。

プレイしているうちに慣れましたが、正直最初はこの独特なグラフィックを敬遠していました。
しかし色数を減じ、さらに暗い色で埋められた画面はこの世界観にピッタリですし、「キャラクターの絵」と「2色のみで表現されたパスポートの写真」を比較審査するという要素の面でも合理的に機能していると感じます。

机の狭さは、すべての書類を広げて一覧できないようになっています。
自分の中でチェックリストを作り、その順に則って作業しないとミスが多発するような仕掛けになっているのです。

ローカライズについて

papersplease_review_07

個人的には、総じて良質な翻訳だと感じました。

人名・一部の項目名・ロゴ化された国名を除き、ほとんどの内容が日本語になっています(人名はアルファベット表記のまま、国名・地名はカタカナ表記へ変換)。
1日が始まってしまうとノンストップで作業を行わなくてはいけない上に、手続きを終えた数が収入に直結するゲームシステムなので、テキストを日本語で読めることの利点は大きいでしょう。
使われている最小のフォントは8×8(縦横1マスずつ余白があるので実質7×7)とかなり小さいサイズになっていますが、これには評価の高いドットフォントである「美咲フォント」が使われているようで、可読性に難を感じることはありませんでした。

オプションの言語項目から「日本語」を選択できます。
初っ端「Nudity」が「ハダカ」と翻訳されていて面食らいましたが、この項目は「スキャン時に写った性器を下着で隠すかどうか」という軽い内容なので「性的表現」という重い言葉が適訳とも言えず、なんともモヤモヤさせられます。
その他、作中の翻訳について男言葉・女言葉の使い分けがされていない箇所が目に付いたのですが(女性なのに男口調で話す)、これは原文がどちらの性別にも適用される部分だったので仕方がないでしょう。

総評

papersplease_review_08

昨今のウクライナ情勢や、ネット文化における共産趣味など現実と対比させて見ることもできます。
派手ではなく単調なゲームプレイですが、プレイヤーの心理に切り込んでくるシーンの数々は忘れられない体験になることでしょう。

20種類のエンディング(細かい分岐を含む)、クリア後はひたすら作業を続けることが出来るエンドレスモードが用意されているなど、ボリュームは十分あります。
本当に、本当に素晴らしい!
これは是非多くの人に、スタンプを押す面白さと、決断をするつらさを味わって欲しい一作です。

関連するリンク

関連する記事